インシデント管理と問題管理の違いとは?役割と連携をわかりやすく図解

システムの安定稼働に欠かせない「インシデント管理」。しかし、類似する「問題管理」との違いを正しく理解できているでしょうか。この記事では、インシデント管理の基本的な目的や重要性から、問題管理との決定的な違いまでを比較表や図解を交えてわかりやすく解説します。結論として、インシデント管理は「迅速なサービス復旧」、問題管理は「根本原因の解決」を目的とし、両者は役割が異なるものの、密接な連携こそがサービスの安定性を高める鍵となります。本記事を読めば、インシデント管理の具体的なプロセスフローから、連携を成功させるポイント、おすすめのツールまで網羅的に理解でき、自社の運用体制を見直すヒントが得られます。

目次

インシデント管理とは 目的と重要性を解説

ITシステムがビジネスに不可欠となった現代において、システムの停止や不具合は事業活動に深刻な影響を及ぼします。このような予期せぬトラブルに迅速かつ的確に対応し、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための活動が「インシデント管理」です。インシデント管理は、ITサービスマネジメント(ITSM)の中核をなすプロセスであり、サービスの安定稼働と顧客満足度を支える重要な役割を担っています。

この章では、インシデント管理の基本的な定義から、なぜビジネスにおいて重要視されるのかまで、その目的と重要性を詳しく解説します。

インシデント管理の基本的な定義

インシデント管理を理解するためには、まず「インシデント」が何を指すのかを正確に把握する必要があります。ITIL(Information Technology Infrastructure Library)というITサービスマネジメントの成功事例をまとめたフレームワークでは、インシデントを「ITサービスの中断、またはサービス品質の低下を引き起こす可能性のある、計画外の出来事」と定義しています。

具体的には、以下のような事象がインシデントに該当します。

  • Webサイトにアクセスできない
  • メールの送受信ができない
  • 社内システムへのログインに失敗する
  • アプリケーションの動作が極端に遅い
  • プリンターから印刷ができない

そして「インシデント管理」とは、これらのインシデントが発生した際に、サービスを可能な限り迅速に正常な状態へ復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に食い止めることを目的とした一連のプロセスを指します。重要なのは、その場での「根本原因の特定」よりも「サービスの復旧」を最優先する点です。根本原因の追及は、後述する「問題管理」の役割となります。

IT運用において扱われる事象は、インシデントの他にも「問題」や「サービスリクエスト」などがあります。それぞれの違いを理解しておくことが重要です。

分類定義具体例
インシデントサービスの中断や品質低下など、計画外の出来事。サーバーがダウンした、システムにログインできない。
問題一つまたは複数のインシデントの根本原因。サーバーダウンの原因となった特定のソフトウェアのバグ。
サービスリクエストユーザーからの情報提供、助言、標準的な変更などの要求。パスワードのリセット、ソフトウェアのインストール依頼。

インシデント管理がビジネスで重要視される理由

インシデント管理は、単なるIT部門の業務にとどまらず、ビジネス全体の成功に直結する重要な活動です。その理由は主に4つあります。

1. ビジネスインパクトの最小化

ITサービスの停止は、直接的な売上機会の損失につながります。例えば、ECサイトが数時間停止すればその間の売上はゼロになり、基幹システムが停止すれば生産活動や受注業務が滞ります。インシデント管理を徹底し、迅速な復旧を実現することで、こうした機会損失や事業継続への悪影響を最小限に抑えることができます。

2. 顧客満足度と信頼の維持

顧客は、サービスが安定して利用できることを期待しています。頻繁なサービス中断や、障害発生時の対応の遅れは、顧客満足度を著しく低下させ、顧客離れを引き起こす原因となります。適切なインシデント管理体制は、サービスの可用性を高め、万が一の際にも迅速な対応を可能にすることで、顧客からの信頼を維持し、ブランドイメージを守る上で不可欠です。

3. 社員の生産性向上

インシデントは、顧客向けのサービスだけでなく、社員が利用する社内システムでも発生します。ファイルサーバーにアクセスできない、業務アプリケーションがフリーズするといった事態は、社員の業務を停滞させ、組織全体の生産性を低下させます。インシデント管理プロセスを通じて、社員が直面するITの課題を迅速に解決し、本来の業務に集中できる環境を維持することができます。

4. ナレッジの蓄積と再発防止への貢献

発生したインシデントの内容、調査過程、解決策を記録・蓄積することは、貴重なナレッジとなります。このナレッジベースを活用することで、過去に類似のインシデントが発生した際に、より迅速かつ効率的に対応できるようになります。また、蓄積されたデータは、インシデントの発生傾向を分析し、根本原因を特定する「問題管理」へとつなげることで、将来のインシデント発生を未然に防ぐための重要な情報源となります。

インシデント管理と問題管理の決定的な違い

インシデント管理と問題管理の決定的な違い 目的: 迅速な復旧 vs 根本原因の解決/役割/時間軸・KPI 復旧後 → 問題登録・RCAへ 既知のエラー/回避策を共有 インシデント管理 リアクティブ 目的 迅速なサービス復旧(影響の最小化) ワークアラウンドで一時対応 役割 サービスデスク中心(一次対応) 解決不可は専門チームへエスカレーション 主な活動 記録・分類・優先度付け 回避策の提供と連携 ゴール/KPI SLA内クローズを最優先 KPI: MTTR、FCR 問題管理 プロアクティブ 目的 根本原因の特定と再発防止 恒久対策(設計変更・バグ修正) 役割 技術スペシャリスト/開発・インフラが主導 横断でRCAを実施 主な活動 ログ/コード/構成の分析(RCA) 変更要求の発行と実装 ゴール/KPI KEDB整備とインシデント削減 KPI: 問題解決時間、削減率 左: 今起きている火事を消す(スピード優先)/右: 火事の原因を断つ(恒久対策)

ITシステムの運用において、「インシデント管理」と「問題管理」は、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)でも定義されている重要なプロセスです。この2つは密接に関連していますが、その目的と役割は明確に異なります。しばしば混同されがちなこれらの違いを理解することは、安定したサービス提供と継続的な品質改善に不可欠です。ここでは、両者の決定的な違いを3つの観点から解説します。

目的の違い 迅速な復旧と根本原因の解決

インシデント管理と問題管理の最も大きな違いは、その「目的」にあります。一言で言えば、インシデント管理は「今起きている火事を消す」活動であり、問題管理は「火事が起きた原因を突き止め、再発を防ぐ」活動です。

インシデント管理の最優先事項は、発生したインシデント(サービスの中断や品質低下)から、できるだけ迅速にサービスを正常な状態に復旧させることです。ユーザーやビジネスへの影響を最小限に抑えるため、原因が完全には特定できていなくても、サーバーの再起動や代替システムへの切り替えといった暫定的な回避策(ワークアラウンド)を講じます。つまり、スピードが命であり、応急処置に重点が置かれます。

一方、問題管理の目的は、インシデントの裏に潜む根本原因を特定し、恒久的な解決策を見つけて再発を防止することです。インシデントがなぜ発生したのかを深く掘り下げ、システムの設計変更やバグ修正といった根本的な対策を実施します。このプロセスは時間がかかる場合もありますが、将来のインシデント発生を防ぎ、システムの安定性を長期的に向上させるために不可欠な活動です。

役割の違い サービスデスクと専門チーム

目的が異なるため、インシデント管理と問題管理では、主にプロセスを担うチームの役割も異なります。

インシデント管理の最前線に立つのは、主に「サービスデスク」や「ヘルプデスク」と呼ばれるチームです。彼らはユーザーからの問い合わせ窓口として、インシデントの報告を受け付け、内容を記録し、過去のナレッジを基に一次対応を行います。彼らの手で解決できない複雑なインシデントは、開発チームやインフラチームといった専門の技術チームへエスカレーション(引き継ぎ)されます。

対照的に、問題管理は、より高度な専門知識を持つ技術スペシャリストや、特定のシステムに精通した開発・インフラチームが中心となって進められます。サービスデスクからエスカレーションされた情報や、繰り返し発生するインシデントのデータを基に、ログの解析、ソースコードのレビュー、インフラ構成の調査など、詳細な分析を行います。企業によっては、複数のチームを横断して調査を行う「問題管理専任チーム」が設置されることもあります。

インシデント管理と問題管理の違いが一目でわかる比較表

これまで解説したインシデント管理と問題管理の違いを、以下の表にまとめました。それぞれのプロセスの特徴を比較することで、両者の違いがより明確に理解できるでしょう。

観点インシデント管理問題管理
目的迅速なサービス復旧とビジネス影響の最小化根本原因の特定と恒久的な再発防止
時間軸リアクティブ(発生後の対応)プロアクティブ(発生後の原因究明と将来の予防)
主な活動インシデントの記録、分類、優先度付け、暫定的な回避策の提供、エスカレーション原因調査(RCA)、恒久的な解決策の策定・実装、変更要求の発行
ゴールSLA(Service Level Agreement)に基づいた時間内でのクローズ既知のエラーデータベース(KEDB)の構築、インシデント発生件数の削減
主な担当部署サービスデスク、ヘルプデスク(一次対応)技術専門チーム、開発チーム、問題管理専任チーム
主要なKPI例平均解決時間(MTTR)、初回コール解決率(FCR)問題解決にかかる時間、インシデント削減率、既知のエラー数

図解でわかるインシデント管理のプロセスフロー

図解:インシデント管理のプロセスフロー 1 検知と記録 全経路→単一ツール 正確にチケット化 2 分類と優先度付け カテゴリ分類 影響度×緊急度 3 調査と診断 ログ/再現/ヒアリング KB参照・エスカレーション 4 解決と復旧 ワークアラウンド可 ユーザー確認 5 クローズ 記録・ナレッジ化 問題管理へ連携 エスカレーション(二次/三次) 優先度決定マトリクス(例) 緊急度 影響度 最高 補足 ・SLAに基づき優先度を決定 ・ナレッジベース活用でMTTR短縮 ・根本原因修正が長期化する場合は  ワークアラウンドで業務継続を確保 ・クローズ時は学習を蓄積し再発防止へ

インシデント管理は、場当たり的に対応するものではなく、ITILなどの国際的なベストプラクティスで定義された、体系的なプロセスに沿って進められます。このプロセスフローを確立することで、インシデントの発生から解決までを迅速かつ効率的に進め、ビジネスへの影響を最小限に抑えることが可能になります。ここでは、インシデント管理の標準的な5つのステップを、それぞれの役割とともに詳しく解説します。

ステップ1 検知と記録

インシデント管理の最初のステップは、インシデントの発生を「検知」し、管理システムに「記録」することです。検知のきっかけは、ユーザーからの電話やメールでの問い合わせ、チャットボットへの入力、あるいは監視ツールが発するシステム異常のアラートなど多岐にわたります。どのような経路であれ、すべてのインシデントを単一の管理ツール(チケット管理システムなど)に正確に記録することが極めて重要です。この記録が、後の対応の質とスピードを左右します。

記録すべき主な情報は以下の通りです。

  • 報告者の氏名・連絡先
  • インシデント発生日時
  • 利用しているサービスや機器
  • 発生している事象(エラーメッセージなど)の詳細
  • ビジネスへの影響範囲

これらの情報を正確に記録することで、担当者は状況を素早く把握し、次のステップへスムーズに進むことができます。

ステップ2 分類と優先度付け

記録されたインシデントは、次に「分類」と「優先度付け」が行われます。これは、限られたリソースを最も重要なインシデントに集中させるための不可欠なプロセスです。

まず「分類」では、インシデントの内容に応じて、「ハードウェア障害」「ソフトウェアのバグ」「ネットワーク接続の問題」「アカウントに関する問い合わせ」といったカテゴリに分けます。これにより、適切な専門知識を持つ担当チームへ迅速に割り当てることが可能になります。

次に「優先度付け」では、ビジネスへの「影響度(Impact)」と、対応の「緊急度(Urgency)」という2つの軸で評価し、対応の優先順位を決定します。例えば、全社システムが停止するようなインシデントは影響度・緊急度ともに高く、最優先で対応されます。一方で、特定の一人のユーザーにしか影響しない軽微な問題は、優先度が低くなります。この判断基準は、あらかじめSLA(Service Level Agreement)で定義しておくことが一般的です。

優先度決定マトリクスの例

緊急度:高緊急度:中緊急度:低
影響度:高優先度:最高優先度:高優先度:中
影響度:中優先度:高優先度:中優先度:低
影響度:低優先度:中優先度:低優先度:低

ステップ3 調査と診断

優先度に基づいて担当者に割り当てられたインシデントは、原因を特定するための「調査」と「診断」のフェーズに入ります。担当者は、記録された情報をもとに、ログの分析、ユーザーへのヒアリング、再現テストなどを行い、何が問題を引き起こしているのかを突き止めます。

この際、過去のインシデント対応履歴や解決策が蓄積された「ナレッジベース」を参照することが非常に有効です。同様の事象が過去に発生していれば、解決までの時間を大幅に短縮できます。

初期対応を行うサービスデスクの担当者で解決が困難な場合は、より専門的な知識を持つ二次・三次サポートチームへ対応を引き継ぐ「エスカレーション」が行われます。迅速なエスカレーションは、問題の長期化を防ぎ、SLA遵守のために不可欠です

ステップ4 解決と復旧

診断によって原因が特定されると、サービスを正常な状態に戻すための「解決」と「復旧」のステップに進みます。インシデント管理における最大の目的は、根本的な原因の追求よりも、まずサービスを迅速に復旧させ、ユーザーが業務を再開できるようにすることです

そのため、根本原因の修正に時間がかかる場合は、「ワークアラウンド」と呼ばれる暫定的な回避策が取られることも少なくありません。例えば、特定の機能のバグが原因であれば、その機能を一時的に無効化してシステム全体を安定させるといった対応です。

具体的な解決策(システムの再起動、設定の変更、パッチの適用など)を実施した後は、必ずユーザーに連絡を取り、問題が解決したことを確認してもらいます。この確認作業をもって、復旧が完了したと見なされます。

ステップ5 クローズ

インシデントが解決し、ユーザーからの同意も得られたら、最後にチケットを「クローズ」します。これは単なる事務作業ではなく、将来のインシデント対応に活かすための重要なステップです。

クローズする際には、以下の点を確認・記録します。

  • 最終的なインシデントの分類が正しかったか
  • どのような調査を行い、何が原因だったか
  • どのような解決策を実施したか
  • 実際にかかった対応時間

これらの情報をナレッジベースに蓄積することで、組織全体のインシデント対応能力が向上します。また、同じインシデントが繰り返し発生している場合や、暫定対応のままで根本原因が未解決の場合は、このインシデント情報を「問題管理」プロセスに引き継ぎ、恒久的な対策を検討するきっかけとなります。

インシデント管理と問題管理の連携が不可欠な理由

インシデント管理と問題管理の連携フロー インシデント管理 目的: サービスの迅速な復旧 活動: 受付/一次切り分け, ワークアラウンド 成果物: インシデント記録, 対応履歴 インシデント対応のみ→再発の連鎖(もぐら叩き) 問題管理 目的: 根本原因の特定と再発防止 活動: 詳細調査, 根本原因分析, 恒久対策 成果物: 既知のエラー(KEDB), 変更要求 エスカレーション(トリガー) 問題管理へエスカレーションの主なトリガー • 複数ユーザーに同種のインシデントが多数発生 • 原因不明でワークアラウンドのみでの復旧 • 重大影響・SLA違反級のインシデント • 新規/前例なしで高度な調査が必要 KEDB・恒久対策・変更で予防/標準化 → 再発抑止・復旧高速化 連携を成功させる4つのポイント • 明確なプロセス定義(エスカレーション基準/判断者の明文化) • 役割と責任の明確化(RACI: 情報提供/調査/対策/実装) • スムーズな情報共有(ITSMで記録連携・進捗可視化・KEDB活用) • 定期レビューと継続的改善(指標評価・ボトルネック解消)

インシデント管理は「サービスの迅速な復旧」を、問題管理は「インシデントの根本原因の解決と再発防止」を目的としています。一見すると別々の活動に見えますが、これら二つが連携しなければ、ITサービスの品質を継続的に向上させることはできません。

もしインシデント管理だけで対応を終えてしまうと、発生した事象を一時的に解消するだけで、その原因は放置されたままになります。その結果、同じ原因によるインシデントが何度も繰り返し発生する「もぐら叩き」の状態に陥ってしまうのです。これは、対応リソースの浪費、ユーザーの生産性低下、そしてビジネス機会の損失に直結します。

インシデントの再発を根本から断ち切り、システムの安定性を真に高めるためには、インシデント対応で得られた情報を問題管理へとつなぎ、体系的な原因分析と恒久的な対策を講じるサイクルを確立することが極めて重要です。

連携の仕組み インシデントから問題へのエスカレーション

インシデント管理と問題管理の連携は、「問題」の起票、すなわちインシデント管理プロセスから問題管理プロセスへのエスカレーションを通じて行われます。すべてのインシデントが問題管理の対象となるわけではありません。特定の条件を満たした場合に、インシデントが「問題」として正式に登録され、専門チームによる詳細な調査が開始されます。

問題管理へエスカレーションされる主なトリガーは以下の通りです。

  • 複数のユーザーから類似した内容のインシデントが多数報告されている場合
  • インシデントの根本原因が特定できず、暫定的な対応(ワークアラウンド)でしかサービスを復旧できない場合
  • ビジネスへの影響が極めて大きい、あるいはSLA(サービスレベル合意書)に違反するような重大なインシデントが発生した場合
  • 過去に前例がなく、原因の特定に高度な調査が必要だと判断された新規のインシデント

このエスカレーションにより、サービスデスクがインシデント対応で得た貴重な情報(発生状況、影響範囲、試した暫定対応策など)が、問題管理チームへスムーズに引き継がれます。これにより、問題管理チームはゼロから調査を始める必要がなくなり、迅速かつ効率的に根本原因の分析に着手できるのです。

連携を成功させるためのポイント

インシデント管理と問題管理の連携を円滑にし、その効果を最大化するためには、組織として仕組みを整備することが不可欠です。ここでは、連携を成功に導くための4つの重要なポイントを解説します。

ポイント具体的な内容
明確なプロセスの定義どのような基準(例:同種インシデントが月5件以上発生、など)で問題管理へエスカレーションするのか、誰がその判断を下すのか、といったルールを明確に文書化し、関係者全員で共有します。プロセスの標準化により、担当者の判断にばらつきが出るのを防ぎます。
役割と責任の明確化(RACI)インシデント管理チーム(多くはサービスデスク)と問題管理チーム(専門技術チームなど)の役割と責任範囲を明確に定義します。インシデント情報の提供責任、根本原因の調査責任、恒久対策の立案・実装責任などをはっきりさせることで、スムーズな協業が可能になります。
スムーズな情報共有の仕組みITSM(ITサービスマネジメント)ツールなどを活用し、インシデントレコードと問題レコードを紐付けて管理できる環境を構築します。対応履歴や調査の進捗状況が一元的に可視化されることで、情報伝達の漏れや重複作業をなくし、効率的な連携を実現します。また、調査結果をKEDB(既知のエラーデータベース)として蓄積・共有することも重要です。
定期的なレビューと改善文化連携プロセスが形骸化しないよう、定期的にレビュー会議などを開催します。エスカレーションは適切に行われたか、問題解決までの時間は妥当だったかなどを評価し、プロセスの課題を洗い出します。このような継続的な改善活動を通じて、連携の質を常に高めていく文化を醸成することが成功の鍵となります。

効果的なインシデント管理を実現するツール3選

インシデント管理のプロセスを効率化し、属人化を防ぐためには、適切なツールの導入が不可欠です。インシデントの受付から記録、対応、クローズまでの一連のワークフローを管理し、SLA(サービスレベルアグリーメント)の遵守を支援する機能が求められます。ここでは、国内外で広く利用されている代表的なインシデント管理ツールを3つ厳選し、それぞれの特徴や機能、どのような企業に適しているかを解説します。

ServiceNow

ServiceNowは、ITSM(ITサービスマネジメント)の分野で世界的に高いシェアを誇る、非常に高機能なクラウドプラットフォームです。ITILに準拠したベストプラクティスが組み込まれており、大企業やITILベースの厳格なプロセス運用を目指す組織に最適です。

ITIL準拠の包括的な機能

ServiceNowは、単なるインシデント管理にとどまりません。問題管理、変更管理、構成管理データベース(CMDB)といったITSMのコアプロセスを網羅的にサポートしています。各プロセスが密に連携し、単一のプラットフォーム上で情報を一元管理できるため、組織全体のITサービス品質向上に大きく貢献します。

インシデント管理における主要機能

  • AIを活用したインシデントの自動分類・優先度付け・担当者割り当て
  • 過去の類似インシデントやナレッジベースを提示する解決支援機能
  • インシデント対応状況を可視化するリアルタイムダッシュボード
  • CMDBと連携し、インシデントが影響を及ぼす範囲を特定する機能
  • 詳細なレポート作成機能による継続的なサービス改善(CSI)の支援

Jira Service Management

Jira Service Managementは、アトラシアン社が提供するサービスデスクツールです。特に、多くの開発現場で利用されているプロジェクト管理ツール「Jira Software」との親和性が非常に高く、開発チームと運用チームが連携しやすい環境を構築できるのが最大の強みです。

開発と運用のシームレスな連携(DevOps)

サービスデスクが受け付けたインシデント(例:システムのバグ)を、ワンクリックで開発チームが利用するJira Softwareの課題(チケット)としてエスカレーションできます。これにより、情報伝達の漏れやタイムラグを防ぎ、迅速なバグ修正とサービス復旧を実現します。DevOpsを推進する企業にとって非常に強力なツールです。

インシデント管理における主要機能

  • 直感的なインターフェースによるインシデントの起票と管理
  • ナレッジベースとして活用できる「Confluence」との強力な連携
  • SLA目標の設定とモニタリング機能
  • インシデントの原因調査から変更管理までのワークフロー連携
  • 豊富なアプリマーケットプレイスによる機能拡張性

Redmine

Redmineは、オープンソースのプロジェクト管理ツールであり、柔軟なカスタマイズ性からインシデント管理(チケット管理)ツールとしても広く利用されています。自社サーバーにインストールして利用するため、ライセンス費用がかからない点が大きなメリットです。

無料で始められる高いカスタマイズ性

オープンソースであるため、自社の運用プロセスに合わせて自由に機能を拡張したり、画面をカスタマイズしたりすることが可能です。豊富なプラグインが公開されており、必要な機能を追加で導入できます。ただし、サーバーの構築や保守、セキュリティ対策は自社で行う必要があり、専門的な技術知識が求められます。

インシデント管理における主要機能

  • 「チケット」によるインシデントの記録とステータス管理
  • 担当者や優先度、期日などの項目を柔軟に設定可能
  • Wiki機能によるナレッジや手順書の蓄積
  • メールと連携したチケットの自動起票
  • ガントチャートやカレンダーによる進捗の可視化

自社に最適なツールの選び方と比較表

ここまで紹介した3つのツールは、機能、コスト、対象となる企業規模が大きく異なります。自社の目的や課題、予算、技術力などを総合的に評価し、最適なツールを選定することが重要です。以下の比較表を参考に、自社に合ったツールを検討してみてください。

項目ServiceNowJira Service ManagementRedmine
特徴ITIL準拠の包括的ITSMプラットフォーム。機能が豊富で拡張性も高い。開発ツールJira Softwareとの連携が強力。DevOpsとの親和性が高い。オープンソースで無料。自社での自由なカスタマイズが可能。
価格帯高価(要問い合わせ)中価格帯(ユーザー数に応じたプラン)無料(サーバー費用・保守費用は別途必要)
おすすめの企業規模中堅企業〜大企業中小企業〜大企業中小企業(特に技術力のある企業)
導入・運用の難易度高い(専門知識が必要)中程度高い(サーバー構築・保守の知識が必要)

まとめ

本記事では、インシデント管理と問題管理の決定的な違い、それぞれのプロセス、そして両者の連携の重要性について図解を交えながら解説しました。インシデント管理の目的は「サービスの迅速な復旧」にあり、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための応急処置的な役割を担います。一方、問題管理はインシデントの「根本原因を特定し、恒久的な解決策を講じる」ことで、再発防止を目指す活動です。

この二つは目的も役割も異なりますが、安定したITサービスを提供するためには、両者の連携が不可欠です。インシデント管理で得られた情報を問題管理プロセスへ適切にエスカレーションすることで、繰り返し発生するインシデントを根本から断ち切ることができます。この連携こそが、サービス品質の継続的な向上と、組織全体の業務効率化を実現する鍵となります。

効果的な管理体制を構築するためには、本記事で紹介したプロセスフローを理解し、ServiceNowやJira Service Managementといった自社に合ったツールを導入することが成功への近道です。まずは両者の違いを正しく理解し、組織内での役割分担と連携の仕組みを明確にすることから始めましょう。

【PR】関連サイト

SHERPA SUITE

詳細情報

〒108-0073東京都港区三田1-2-22 東洋ビル

URL:https://www.sherpasuite.net/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次